飲食店の売上高(総)人件費率とは?│外食上場企業を参考に考察

DX推進

マネジャーになってこれまで触れたことのない指標や用語に頭を抱えている新任マネジャーも多いことと思います。競合とする外食企業のIRなどで決算開示情報などを確認し経営状況を推し量ることもあろうかと思います。ここでは外食上場企業のIR開示データなどを参考に各社の売上と人件費の関係について見ていきたいと思います。今回は売上高総人件費率がテーマです。

売上高総人件費率とは?

売上高(総)人件費率(※企業により「総」が付く場合もあり)とは、企業の売上(トップライン)に対する人件費(給与やボーナスなど)の割合のことをいいます(パーセンテージで表します)。

計算式で表すと

売上高総人件費率(%)=人件費÷売上×100

とシンプルな式となります。

人件費には単純に毎月の従業員の給与やボーナス(賞与)だけでなく、福利厚生費や法定福利費、退職金、役員の役員報酬と役員賞与などが含まれています。その他細かい部分では

慶弔金や社員旅行費などの福利厚生費
現物支給されている通勤定期券代や社宅の費用

なども人件費にふくまれます。当たり前ですが、売上高人件費率が大きければ、会社の人件費の負担割合が大きいことを示しており、逆に売上高人件費率が小さければ、会社の人件費の負担割合が小さいことを示しています。

人件費だけでなく売上(トップライン)によっても数値は左右されますので一概には言い切れませんが、従業員の生産性を推し量る指標の一部としても使われることがあります。ちなみ労働生産性は以前触れたとおり、投下された労働量(≒就業者数)に対して生み出された付加価値、つまり売上ではなく粗利(≒売上総利益≒営業利益+人件費+減価償却費で表す場合もあります)ベースで算出される指標ですので違いがあります。

(注) 労働生産性とは、生産性分析の一指標であり、従業員一人当たりの付加価値額を示す指標。ここでは、以下の算出による。

労働生産性 = 付加価値額 ÷ 常時従業者数

参照元:経済産業省統計資料 https://www.meti.go.jp/press/2020/03/20210331011/20210331011.html

補足

労働生産性の計算式を解釈すると「従業員一人あたりが企業活動によって生み出す付加価値額」となります。「付加価値」とは何を指すかですが、「付加価値」とは、会社が新たに生み出した価値のことと定義しながらもそれは業種によって様々捉え方があるようです。付加価値について同様に経産省の解説では

(注) 付加価値額 = 営業利益+給与総額+減価償却費+福利厚生費+動産・不動産賃借料+租税公課

とあります。

少し話はそれましたが、今回テーマとなる売上高人件費率も労働生産性や労働分配率などのように大企業と中小企業、産業別で見ても大きな違いがあります。

国内企業の売上高総人件費率推移

データは少し古いですが財務省の開示統計データに以下のようなものがありました。

2015年度の製造業、非製造業を見ると、人件費は前年度比で増加し、売上高は前年度比で減少したことから、売上高人件費比率は前年度比で上昇しています。2010年~2015年度国内の売上高人件費率は全産業平均で13~15%前後で推移していたようです。

売上高人件費比率のグラフ

https://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/keyword/keyword_05.htm

財務省財務総合政策研究所参照

飲食業、外食産業における売上高人件費率はどれくらい?

外食産業に特化してデータを見てみたいと思います。上場企業では売上高、人件費を公開しているため比較的容易に売上高人件費率を算出することが可能です。

ただし、先程も触れたようにこれらの指標はトップラインの上下に大きく左右されます。つまり外部環境の大きな変化があった際の数値は大きく変動することから見方には注意が必要です。

よってここでは主要外食企業の2015年~2019年(コロナ発生前)までの数値推移について見てみたいと思います。単位は%

2019年度の売上高人件費率の低い順に並べてみました。企業はランダムに20社程を抽出してみました。

企業名業態2015年2016年2017年2018年2019年2015-2019比
ゼンショーHD複合4.604.974.825.115.530.9(%)
吉野家HD牛丼9.6810.1610.3410.339.840.2
SFPHD複合11.0811.3312.0412.4212.791.7
ドトール・日レスHDカフェ19.3919.4419.4420.1620.070.7
ロイヤルHDファミレス26.8526.9226.7526.2626.03-0.8
物語コーポレーション焼肉他25.4725.4924.8525.2026.350.9
コロワイド複合22.3925.7425.9026.2927.174.8
くら寿司回転寿司25.0125.4325.3426.0928.063.1
FOOD & LIFE COMPANIES回転寿司28.3228.2927.8427.5528.19-0.1
サンマルクHDカフェ27.9928.5429.6930.5032.294.3
すかいらーくHD複合35.3835.8536.2236.9737.362.0
上場企業各社のIRから算出した売上高人件費率推移(コロナ前まで)

同じ外食産業内でも同じ業態(例えば回転寿司、カフェ、焼肉など)やホールディングス、つまり持株会社かそうではないかを加味しながら比較してみると良いと思います。

実はここにはマクドナルドHDを入れていませんが、マクドナルドは5%程ととても低い数値で公開されていますが、持株会社であるホールディングスに属する経営陣を中心とした一部役員のみの人件費となり、一般の社員人件費は子会社として切り離して計上している事から、比較データとしてあまり参考にはならないとして除外しています。

ただ同社も生産性にはかなりこだわりDXを推進しこれらの数値は全店舗含めてもかなり高いレベルにある企業であることは間違いないと思われます。

また、ロイヤルホールディングスもマクドナルド同様「労働生産性」「労働分配率」にはかなり経営指標として優先度の高い位置においている外食企業の1社です。ここ5年で-0.8%減っています。

同社は2015年度ー2019年度対比で売上が7.8%トップラインがアップし、成長しておりますのでこの人件費率はトップラインをあげていきながらも人件費を抑えていると言えると思います。

同社のIRには直近では必ず「生産性向上」「労働分配率」「労働生産性」「一人あたり●●」という指標が必ずと言ってよいほど使われており、そのための券売機や発券機、オーダータッチパネル、モバイルオーダーシステムなどのIT投資(最近でいうDX推進)を積極的に経営レベルで意思決定をしている企業と言えます。

直近はコロナの影響で陰りも見えていますがこういった状況下でも事業を継続されているのはこういったこれまでの取り組みが支えているということはあるのだと思われます。

また、最近特に成長著しい回転寿司業界もスシロー(Food&Life)とくら寿司の各指標に対しての意識の高さが伺えます。

両社ともに28%前後でしのぎを削っていますが、5年スパンで見るとスシローのDX化のスピードが勝っているとも言えるのではないでしょうか。トップラインは両社ともに伸びています(5年成長率で言えばスシローに軍配か)が、人件費率はくら寿司が5年対比で+3%増に対してスシローは▲0.1%とあれだけトップラインと店舗数を急激に伸ばしながらも人件費率は増えていないというのが驚異的であると言えます。

両社の動きからは当分目が話せそうにありませんね。

まとめ

飲食業は他業種に比べ労働生産性が低い、つまり裏を返すと人的リソースの投下によって高い付加価値を産みやすい業種である一方で生産性が低く人的投資がしづらい≒人件費をあげづらい業界でもあると言えるかもしれません。外食産業の年間平均給与が他業種に比べ低く設定されている傾向があるというのは生産性が低いことと比例していると思われ、一方で生産性を高めることができれば年間給与つまり人件費に投資できる金額もその分引き上げることができるといえるでしょう。

そうはいっても一概に従業員数を削減し総人件費をただ単純に減らして付加価値や生産性を高めるという考えはマネジメント初心者としては陥りやすいポイントです。

飲食店では従業員の接客品質や徹底したQSCが集客にわかりやすいほどに影響し、強いてはその店の売上を左右すると言っても過言ではないとも言えます。

ポイントは従業員の減らし方です。不必要な領域の見極め、過剰サービス領域へのメス、それは顧客が求めているものなのかの精査、そして最も目を入れるべきは「人でなくても良い領域、人でなくてはならない領域の見極めとその実行」です。

飲食業において人件費は低ければ低いほうが良いかといえば、そうではないと思います。無機質なロボットが提供するサービスのみであれば別に飲食店に行く必要もなく、自宅やコンビニで十分なのではないでしょうか。人と接する機会を作る、深めることで付加価値を産む領域があります。その投資を生み出すための生産性向上、業務改善やIT投資、DXであるべきであると捉えます。そこは人であるべきかというフラットな視点を持って経営改善や店舗内のオペレーション改善、DX推進に取り組んでいただきたいと思います。

投資によって創出された従業員の時間を何に投下するか。そこが重要であり、経営者やマネジメント層の価値やセンスが分かれるところであると思います。

ぜひ先程の上場企業のデータや同業態競合企業の数値などを参考に、売上総利益率、売上高総販管費(人件費)率、営業利益率など少し目立たないですが重要な指標となっている指標にも着目し、数値を改善している企業が直近数年でどういった取り組みをしてきているかについて決算補足資料などで深堀りして見ると新しい発見があるかもしれません。

ライタープロフィール

生産性高めさん(ペンネーム)

大学卒業後、メーカーでGMSを中心とした大手量販本部法人営業経験後、マーケティングコンサルファームにて多岐に渡る業種を支援。新興国における海外法人経営、国内事業統括を経て同社の上場を機に異業種へ転身。労働集約型のコンサルファームで培った限りない生産性への追求は現代のスマート経営におけるヒントとなる部分も多く、本業の事業戦略業務の傍ら週末はBPO企業の依頼により各方面への講演の他、ライターとしても執筆活動を行うマルチサラリーマン。

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