労働分配率を正しく理解する│飲食店の労働分配率

生産性向上
飲食店経営に欠かせない労働分配率とは?

マネジャーになってこれまで触れたことのない指標や用語に頭を抱えている新任マネジャーも多いことと思います。ここでは経産省の統計資料で使われている用語解説などを参考にしながら難解な労働分配率という飲食店の運営やマネジメント上重要な指標の理解を深めていきたいと思います。

労働分配率とは?

経済産業省では、我が国企業の経営戦略や産業構造の変化の実態を明らかにし、行政施策の基礎資料を得るため、「経済産業省企業活動基本調査」を実施しています。その中で調査項目として使われる指標に「労働分配率」があります。経産省の解説によると、

(注) 労働分配率とは、付加価値額に対しての人件費を示す指標であり、会社が新たに生み出した価値のうちどれだけ人件費に分配されたかを示す指標。ここでは、以下の算出による。

労働分配率 = 給与総額 ÷ 付加価値額 × 100

とあります。

給与総額は一般的には人件費として表現されることが多いと思いますのでわかりやすいと思います。しかしここでいう「付加価値」とは何を指すかですが、「付加価値」とは、会社が新たに生み出した価値のことと定義しながらもそれは業種によって様々捉え方があるようです。付加価値について同様に経産省の解説では

(注) 付加価値額 = 営業利益+給与総額+減価償却費+福利厚生費+動産・不動産賃借料+租税公課

とあります。

益々難解になってきました。。。

更に付加価値の算出方法にはいくつか方法があるらしく。

  • 控除法:付加価値 = 売上高 – 外部購入価額
  • 加算法:付加価値 = 人件費 + 賃貸料 + 税金 + 他人資本利子 +当期純利益

とあるようです。一般的には中小企業など中心に控除法がよく用いられており、中小企業庁方式とも呼ばれる計算方法と言われています。

更に外部購入価額には厳密には仕入れた材料やら何やら含まれていますが、わかりやすくざっくり算出するには粗利(売上総利益)ベースで算出することも多いようです。

中小企業と大企業の労働分配率の違い

労働分配率はその企業がどれだけ少ない投資でどれだけの付加価値を産み出しているかという指標としても見られますが、企業規模や資本力によっても大きな違いが出ることが多い指標といえます。なぜならば資本力のある大企業では数年に一度大規模な設備投資なども実施可能なことからIT化やシステム化、最近ではDXと言われる分野にも積極的な投資をしやすい環境にあるといえます。よってその投資によって少ない従業員数で一定規模の売上や利益を生み出すことが中小企業に比べて比較的容易な環境にあるのです。よって一律で全規模の企業平均と比べてしまうと自社とも大きな乖離が生まれます。

そこで経産省や中小企業庁では企業の規模別に大企業と中小企業とに分けて労働分配率や労働生産性を統計データとして発表しています。

2019年の経産省の調査によれば

全国の、37,528社を調査した結果(規模としては常時従業者数513人、売上高は246.1億円規模ということから中小企業~大企業の中間クラスのデータと理解)

それらの企業規模をサンプルとしたデータでは労働分配率としては

全業種平均で48.6%(製造業、小売業、卸売業合計)

という調査結果でした。しかしこれだけで見てしまうと業種別に結構な差があることから一概に50%程度が平均かというとそうではないというのが実情です。業種によって人的リソースが付加価値を生みやすい業種、そうでない業種でその分配率は大きくかわります。

ここではもう少しブレークダウンして業種別、特に人的リソースが大きな構成比を占める飲食店ではどういった数値になっているかを見てみたいと思います。

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kikatu/result-2/2019kakuho/pdf/2019_allgaikyou.pdf

経済産業省「2019年企業活動基本調査確報-平成30年度実績-」参照

飲食業における労働分配率

先程の経産省の調査内容を業種別に見てみたいと思います。

ここでは「飲食サービス業」という業種分類となっています。

企業数612社、40,881事業所数、平均の従業員数は1,620名/社あたり、売上規模は88億円/社といったデータサンプルの結果となります。

付表7  産業別、一企業当たり付加価値額、付加価値率、労働分配率、労働生産性

を見ると

飲食サービス業は64.9%

と「なめし革・同製品・毛皮製造業」といった職人且つ属人性の高い業種、つまり機械化しづらい業種に次いで2番目に高い数値となっています。

ちなみに「鉱業、採石業、砂利採取業」は15.1%と最も労働分配率の低い業種となっているようです。

このように高い業種と低い業種で約50%近い差があることから、一概に全業種平均ではなかなか図りづらいものがある指標であるといえます。

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/kikatu/result-2/2019kakuho.html

2019年企業活動基本調査確報-平成30年度実績-

付表1  産業別、企業数、事業所数、常時従業者数、売上高

付表7  産業別、一企業当たり付加価値額、付加価値率、労働分配率、労働生産性

参照

まとめ

飲食業は他業種に比べ労働分配率が高い、つまり裏を返すと人的リソースの投下によって高い付加価値を産みやすい業種であると言えるかもしれません。

接客やQSC品質が集客への影響や強いてはその店の売上を左右すると言っても過言ではないとも言えます。

しかし一方で先程労働分配率が最も低い業種として挙げられていた「鉱業、採石業、砂利採取業」は最初から労働分配率は低かったのでしょうか。

私はそうは思ってはいません。それらの業種は飲食業とは違い危険やリスクが労働者に伴う業種であり、半ば強制的に人的リソースを投下する領域を減らしていき機械化、省力化を加速する必要があった結果、生産性が向上し労働分配率が下がっていったのではないかと推察されます。

飲食業で働く労働者に同様の危険やリスクが伴うとは言いづらいですが、経営視点から見て重要なのは業種平均が●●%だから自社は一般的だ、という見方ではなく、労働分配率が低くてもしっかりと利益や付加価値を産み出している業種は何をどう改善し、それは飲食業にも採り入れることはできないだろうか、というフラットな視点を持って経営改善や店舗内のオペレーション改善、DX推進に取り組むべきであると考えています。

そうすることで生み出された従業員の時間を何に投下するか。そこが重要であり、経営者やマネジメント層の価値やセンスが分かれるところであると思います。

ライタープロフィール

生産性高めさん(ペンネーム)

大学卒業後、メーカーでGMSを中心とした大手量販本部法人営業経験後、マーケティングコンサルファームにて多岐に渡る業種を支援。新興国における海外法人経営、国内事業統括を経て同社の上場を機に異業種へ転身。労働集約型のコンサルファームで培った限りない生産性への追求は現代のスマート経営におけるヒントとなる部分も多く、本業の事業戦略業務の傍ら週末はBPO企業の依頼により各方面への講演の他、ライターとしても執筆活動を行うマルチサラリーマン。

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